8.日本は新しい開国が必要だ。外資系企業の日本進出を促進することである。

外国企業による日本企業の買収騒ぎを聞くたびに海外に住んでいた時の二つのエピソードが思い出される。一つは今から20年ほど前の1980年代の後半だった。私は商社の駐在員としてシカゴに住んでいた。テネシーだったかケンタッキーだったかの田舎町に出張した時である。年配の紳士が近づいて来て日本人かと尋ねた。そうだと答えると、笑みを浮かべて、“この近くにHITACHIがやってくるのを皆が喜んでいる”と握手を求めて来た。恐らく不景気で潰れかかった地元の工場を日立の名前がつく日本の企業が買い取った。そのおかげで多くの人達が町に残ることができて良かったということだったのだろう。何か自分がとても良いことをしたように嬉しく感じた。それから10年ほどして英国に留学していた時に、当時の英ポンド高に耐えられずに富士通が子会社の工場閉鎖を発表した。時を同じくしてシーメンスも撤退ということで数千人の雇用が失われた。一連の出来事は新聞やテレビでも大きく取り上げられ、ブレア首相は記者会見で何とか決定を覆すように努力すると話していた。 外国の企業が工場を閉鎖したために雇用が失われることが国内のトップニュースとなっていたのだ。

それに比べて日本では未だに多くの人が外資のことをはげたか呼ばわりしている。まるで攘夷のメンタリティだ。確かに数年前に、政府が弱り切った銀行を2足3文で外資に売り飛ばしたことは不祥事だったと思う。しかし不祥事を起こしたのは、企業を駄目にした経営者であり又官僚による指導の結果として日本の企業の価値を貶めた政府なのだ。他の日本企業には他社を買収して立て直す余裕も能力もないので、日本人の雇用を守るためには外資系に二束三文で売るしか無かったのだ。外資ははげたかでは無くむしろ救済者だったのである。それまで日本だけにしか通用しないルールで競争してきた日本企業の社員は可哀相であった。日本の金融市場では、市場価格も店舗の展開もサービスの種類も著しく統制されていた。自由競争に委ねられていたのは限られた部分のみであった。かかる環境では日本の企業は本来あるべき競争とは異なるところで他社との差別化を計ろうとする。例えば日本のサッカーだけはシュートはヘッディングしか許さない、というような海外で全く通用しない規則が出来てしまうと、足が遅かろうがキックが悪かろうがヘッディングのうまい選手ばかりが重宝されるので、皆がヘッディングの練習ばかりする様なものである。ところが国際化が急速に進んだ結果として今までのローカルルールでは通用しなくなった。急に規則が変わって困ったのは中堅社員である。今まで苦労して培ってきた技術が何の役にも立たなくなってしまった。企業からみれば、中堅社員の教育をやり直すよりも、始めから何も知らない若者を雇って新たに教育を施した方がよほど安上がりだ。こうして銀行や証券会社のホワイトカラーの人々が途方にくれた。その様な次第で日本の会社はリストラに追われて他社を救済する余裕など無かったのだ。

それでは外国企業が日本企業を買収することが日本にとってそんなに悪いことなのか考えてみたい。まず米国の企業が日本の企業を買収するには金を支払う必要がある。受け取った金で日本人は同じ価格のアメリカの企業を買うこともできるのだ。アメリカの企業が日本で事務所や工場を建てようと思えば土地代や手数料が日本の企業に転がり込む。さらに日本人社員を雇うことになるのでアメリカ人の金で日本国内の雇用は守られる。日本人が日本法人の幹部になれば多額のボーナスも期待できる。これもアメリカ人の懐から出てくる。経営者がアメリカ人の場合であれば、彼らは麻布や青山の億ションに住むので日本の不動産屋は大もうけだし多額のサラリーのかなりの割合は所得税として国の収入になる。良いことづくめである。会社の経営が軌道にのれば、法人税がたっぷり入ってくる。 はげたかとか言って攘夷をさけぶのではなく、積極的に優良外国企業に来てもらうことは重要な国策であるべきだ。むしろ日本企業の海外進出のほうが一般の日本人にとって問題になりえる。まだ記憶に新しいことだがバブルの時に日本企業が外国の不動産を買いまくったおかげで何人のアメリカ人が億万長者になったことやら。結局ほとんどの日本企業が買値よりはるかに安い値で売り払って巨額の損を被ったのだから何をか況やである。トヨタやソニーが海外進出することも企業としての健全な判断のもとにやっている訳だが、国内の雇用という観点のみで考えれば良いことではない。

多くの海外の優良企業が日本に集まり、日本を起点として事業を発展することができれば日本の雇用問題は解決するだろう。 海外からお客さんを呼んで利益をあげて雇用を守らなければならない。お客さんといっても何も観光客に限らない。日本の能率の悪い企業を立て直してくれて給料や税金を払ってくれる外国人も大切なお客さんである。そしてお客さんを集めるには、中国や韓国、シンガポールなどのライバル国と競争しなければいけない。この観点が官僚国家日本には決定的に欠けている。成田空港をみれば良い。世界2番目のGDPを誇る国の飛行場があんなにみすぼらしいとは本当に情けない。20年以上前から海外出張から帰ってくる度にいつも呆れていた。サービス産業としての意識が欠けているのだ。入国審査のひどさについては20年以上経っても大きな改善はみられない。日本人はほとんど待つことも無く審査を終了するが、外国人は長蛇の列で窓口に到達するまでに一時間ぐらいかかることも珍しくない。彼らにとっての最初の日本の印象は大変悪いものになる。勿論最近はテロリスト対策や不法入国を防ぐ為に何かと大変だろうが、それならば即座に必要な人員を投入すれば良いのだ。おそらく人数を増やす予算が無いからとの言い訳があるだろうが、ここに官僚まかせの政治の問題点があるように思う。前年度実績がベースになるために何時まで経っても予算がなかなかつかない。海外からのお客様に良い印象を持ってもらい“日本”を買ってもらう為に、入国審査の人員を倍増しても設備を拡張してもいくらでも無いはずだ。

アジアのハブになるための競争は空港だけでなく、アジアの各都市の中でも繰り広げられている。 中国とは比較にならない圧倒的経済力を持つ日本の首都がシンガポールや香港ばかりでなく上海や他の中国の都市の後塵を拝しつつある。東京を魅力ある都市にしてアジアの経済・文化の中心になってほしいと思う。もはや箱物にお金をかけてもあまり効果はないだろう。必要なのは金融や資本取引の法的整備や不必要な規制の撤廃、文化交流・教育などソフト面での充実だ。 更に大切なのは世界中の企業や政府に日本の都市の魅力を売り込む為のマーケッティングであろう。 この努力を政府は怠っている。

ここで強調したいのは、国内の都市の間でも競争原理が働かなければいけないことだ。東京や大阪だけではなく、名古屋、福岡、札幌等の各都市が、それぞれの地域的特長を生かして多くの人が住みたくなるような環境をつくるべく切磋琢磨してこそ、魅力ある国になれる。霞ヶ関が予算を握り、上に立って好きな様に地方をコントロールしている限り可能性はない。地域の特色を無視した金太郎飴のような援助で新幹線や道路を整備していったら、皆東京に逃げ出してゆくことになる。地方自治が大切だ。地方自治を考える時に思い出すのは、米国の地方都市である。世界をリードする国際企業の本社がニューヨークやLAだけではなく数多くの地方都市に点在している。日本の企業のほとんどが東京あるいは大阪に本社を持っているのとは大きな違いである。日本においても各都市が地方自治を進め、各都市が地方税収入を自主的且つ戦略的に活用して、内外の企業の本社や工場を誘致できる環境が整えば、様々な分野において日本やアジア、更には世界の拠点になることが出来るだろう。国は国防、治安安全、医療厚生、道路などのインフラに責任を持てばよいのだ。(最近、このインフラ自体も民営化が良いとの意見があるが怖いことである。営利企業をそんなに信用してはいけない。)

日本がバブルに沸きかえって首都圏の地価が異常に値上がりしていた時に、生まれ故郷の苫小牧と千歳空港の間に新しい町をつくり一気に多数の外国企業を誘致して、アジアの1拠点にすることを夢想していた。外国資本がアジアの拠点とする都市を選択する上でのポイントは、その国の経済規模、主要都市へのアクセス、政治的安定、治安の良さ、コストの安さ等だが、北海道の場合は欧米やアジアの中心都市とのアクセスさえあれば他の条件は抜群である。東京のように混雑していないし、生活環境が良く、しかも土地代は遥かに安い。東京への便は一時間に一本以上あるので日帰りできる。アジアや米国の主要都市から直行便があれば飛行場に近いので30分で事務所に到着できる。東京に住んでいる人も羽田から千歳経由で海外に飛べば良い。何も不便な成田を利用する必要はない。空港税が安いので運賃も安くなるはずだ。千歳にある米軍基地を少し返してもらえれば、これも豊かなインフラになる。なにせ欧米人は暑さに弱い。北海道の気候は欧米に似て湿度が低いので、暑いアジアの諸都市をまわった後では天国のように感じるだろう。芝生の生育にも理想的でまさに彼らの故郷と同様の生活が可能である。道路公団がふんだんにお金を費やしてくれたので誰もいないところにも舗装道路が整備されている。ガソリン税を安くしてやればアメリカ人にとってまさに理想的な住環境だ。米国法人の社長は東京よりもはるかに安い費用で大邸宅に住むことが出来る。しかも極東ロシアとの交易にも有利である等良いところづくめである ―― その後、バブルが弾けてしまって東京の土地価格も正常に戻ってしまったので現実性は若干遠のいたかもしれないが、やり方によってはまだまだ可能性があるのではないだろうか。 沖縄のほうがもっと可能性があるかもしれない。何せ独立国としては異常な数の米軍基地が未だ残っている。その一部でも返してもらおう。 米国に対しても有利な条件は提示できるはずだ (これは政治的にも重要なポイントだと思います。) かなりの数のインフラや多くの人材を有効に活用できる。沖縄県民の欧米文化や英語に対する習熟度は日本の平均をはるかに超えている。何といっても台湾と中国との中継基地として機能できるし東南アジアの各都市には東京より遥かに近い。中国中南部から東南アジアに至る地域のハブとしては絶好である。しかも近隣のライバル国(つまり中国)よりも法的環境が整っており治安がよく観光資源もある。中国人にとっても欧米企業のアジア本社が東京にあるよりも沖縄にある方が抵抗感は少ないだろう―これはかなり大きなポイントだと思う。沖縄はアジアの中心になれる条件を兼ね備えている。大阪は様々な面で東京に無い味を発揮できるし、福岡は韓国や中国山東省との地理的結びつきを生かした発展の仕方があると思う。京都や奈良は、我々が大切にしている素晴らしい日本の文化を発展させて世界に発信する使命がある。このように各都市が自らの魅力を磨いて外国企業や優秀な外国人を誘致すれば、日本は今より遥かに魅力ある国になるだろう。(これを実現する為には上海や香港、シンガポール、バンコク等のライバルに勝たなければいけないことを忘れてはいけない。)

戦後の数十年間、米国向けの輸出が日本の経済成長に大きな貢献をした。 私の経験でも、米国の市場は大変に開放的で、価格が安くて製品が良ければ、お客さんは自国製にこだわらずに日本製品に切り替えてくれた。多くの州は日本企業にきてもらうために税金の免除など色々な優遇をしてくれた。そうしてくれたのは彼らが優くて良い人々だったからではなく、そうすることが彼等にとって利益になったからだ。輸出ばかりに熱心で、外資に対しては鎖国状態でいるのは道義的に筋が通らないばかりでなく、決して国のプラスにならない。円高になって大騒ぎをするのは経済的に未発達の国がすることだと思う。

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